- カトリックの教え
千年先を見据えた仕事
世界最古の木造建築、法隆寺。1350年前から飛鳥の地に同じ姿で立っています。なぜ、いくつもの戦渦を生き延び、今も残っているのでしょうか?偶然ではありません。創建の時から、千年先を見越して造られていたからです。人間国宝の宮大工、西岡常一は「千年先を見据えた仕事をしなけらばならぬ」と、代々の法隆寺大工棟梁に伝えられた口伝を紹介しています。こんな高い精神性があったからこそ、その姿が現代に伝えられているのです。先に精神があったから、モノが残されました。現代人にこの精神性はあるでしょうか?立派に見える大都会も、千年後には何一つ残っていないでしょう。誰も千年先を見据えて働いていないからです。「今だけ、自分だけ、お金だけ」の世界観、価値観で動いている唯物的な社会です。
飛鳥時代、奈良時代、平安時代と物的には貧しかったかもしれませんが、高い精神がありました。もっと敬意を払うべきだと思います。この高い精神性は、祈る心と切り離せません。また来世を見据える宗教心と一体です。現代は祈りを忘れ、人間の永遠性という視点を失った「貧しい」世界なのです。現代人は自分だけの安楽に閉じこもることなく、この精神性を社会に取り戻す使命があると思います。あなたは千年先に何を残したいですか?次の世代に何を伝えたいですか?
もう一つだけ日本の宝を紹介させてください。奈良、東大寺の宝物殿「正倉院」の奇跡です。聖武天皇が崩御された後、光明皇后はその宝物を東大寺に寄贈して、正倉院に納められました。それは世間に広く知られていましたが、一度も賊に奪われたことがありません。ファラオの墓は、隠されていたのに盗掘されています。中国やヨーロッパでは、王権が交代するとすべてが壊され、そして奪われました。ところが正倉院は、常に時の権力者によって保護されました。絶対権力を手にした織田信長も私物化しませんでした。外敵を防ぐ壁もなく火に弱い木造建築ですが、そこに宝物が1300年も安置され続けているのは奇跡です。
宝物が武力で守られたのではなく、日本人の高い精神性によって守られたのです。この精神性は、焼け野原になった戦後の日本が復興するときにも大いに発揮されました。日本人が、まるで一つの家族であるかのように心を一つにして、力を合わせたから出来ました。モノで復興したのではありません。精神があったからなのです。美しい豊かな日本を子の世代に残したいという信念、次の世代のために犠牲をいとわない姿勢、国のために命を捧げた方々への恩返し、これらが復興の原動力でした。
キリスト教の原動力もこのようなものです。世の終わりに起こる「救い主の再来」を思い起こします。永遠という視点で今を見ています。永遠の視点がないと人生の真実は見えてきません。時代が過ぎ去っても過ぎ去らないものを人生に刻み、残しましょう。生きた証し、それは真、善、美であり、愛です。■(文責:小寺神父)*2021/12/03 精道学園、高校1・2年生への説教