- カトリックの教え
令和7年度5月モットー『敬愛』

「父母が頭かきなで幸(さ)くあれて言ひし言葉(けとば)ぜ忘れかねつる」
これは『万葉集』に収められた防人の歌の一つです。「父と母が『無事でいなさい』と言って頭を撫でてくれた、その言葉が忘れられない」と詠まれています。
防人とは、北九州の防備にあたった兵士たちのこと。頭を撫でるという仕草には、無事を祈るおまじないの意味があったとも言われています。
この短い歌の中には、子どもの無事を願う親の愛情と、その愛を受け取って旅立つ息子の思いが凝縮されています。1200年以上も前に詠まれたにもかかわらず、現代の私たちにも深く響くのは、そこに変わらぬ真理――親子の愛情があるからなのでしょう。
親子の深い愛は、人と人とが社会の中で支え合って生きていくうえで、根っこにあるべきものだと思います。人を思いやる心。誰にとっても大切で、言葉にするまでもないことですが、ふと自分の日々の言動を振り返ると、その気持ちが少し薄れてしまっていることもあるかもしれません。
聖ホセマリア・エスクリバーの言葉に、こんな一節があります。
「愛徳は『与えること』よりも、むしろ『理解する』ことにある。それゆえ隣人を判断する義務があるときには、その人の言い分を捜してあげなさい。必ず見つかるはずだ」(『道』463)
今月のモットーは「敬愛」。一日の終わりにこの言葉を思い出しながら、自分の行動や言葉を振り返り、少しでも人に優しく、心を寄せる日々を送りたいと思います。