• カトリックの教え

読書という娯楽

夏が終わろうとしています。いつの間にか窓の外から聞こえてくる虫たちの鳴き声も変わっていることに気がつきます。あいかわらずコロナと同居した生活が続いていますが、見えないところで私たちはきっと前進しているのでしょう。

稲垣良典著『天使論序説』

今年の夏、普段は手にしないような本を読んでみました。天使の存在を哲学的に真面目に考察している『天使論序説』(講談社文庫、1996年)、13世紀の天才的著作家トマス・アクイナスの神学大全を分かりやすく解説した『トマス・アクイナス「神学大全」』(講談社選書メチエ、2009年)、これらはいずれも大学教授である稲垣良典先生の本でした。日常生活ではまったく考えもしないテーマを、ゆっくりと丁寧に考察しいくというのはとても新鮮な活動で、あたらしい世界を体験することができました。

 「ごくありふれた日常の中であたらしい世界を体験する」ということは、実はとても素晴らしい娯楽のような気がします。ディズニーランドやUSJのようなテーマパークに行けば、確かに非日常を味わうことができます。でも、読書を通じての体験はどこでも、誰でも、気楽に、しかも格安で味わえます。

マリアン・ロハス著『あなたに良いことが起こるために』

もう一冊、とても良かった本があります。それはマリアン・ロハス著『あなたに良いことが起こるために』(プリズムBooks、2021年)です。友人に勧められたのですが「いつもの自己啓発本はもういいや」と食傷気味でした。でも、とりあえず手にとって読んでみました。そして、いい意味で裏切られました。いつもの自己啓発本はあまり根拠が示されていない、データはあってもその信憑性に疑いがある、さらには、そこで語られる人間観や価値観に魅力を感じないのですが、この本は違いました。しっかりとした専門分野を研究している精神科医で、たくさんの専門論文を読んでいることがわかるし、伝わってくる価値観や人間観に共感できるものがたくさんありました。著者は4人の男の子を持つ(最近4人目が生まれたそうです)若い母親でもあります。暖かい家庭の、理解力と経験の豊かな精神科医のお母さんが、あれやこれやを魅力のある形で語ってくれるという本です。特に、スマホを介したSNSや動画(Instagram、Twitter、Facebook、LINE、YouTubeなど)の中毒性の源を語る部分では「そうだったのか、やっぱりそうだよね!」と納得の説明でした。大手IT企業に手玉に取られて弄ばれている、そんな現代人そして自分の姿が悔しい限りです。なんとかしないと!と自覚を促してくれます。

 秋になります。読書という手軽な娯楽を見直してみるいい機会かもしれません。(硲恵介神父)