• カトリックの教え

現代人の「成功」への強迫観念

 現代人は社会で成功することが幸せの条件だと感じています。そして多くの若者は、社会で成功しなければ不幸であり、人間としての価値も低いように感じています。この思い込みが自らを不幸にして孤独に陥らせます。社会の上に行くためには他者と競争して、勝ち残る必要がありますが、現実と理想の狭間で地位や収入に過剰にとらわれ頭と心を悩ませます。また、自分の弱さを恐れ、弱さや惨めさを受け入れることができません。弱さを認めることは、自分は大物になれない、富も名声も手に入れられないことを意味するからです。(教皇講話集『世をいやす』p.123参照。2020年2月5日フランシスコ教皇講話)

「自己実現」という人格の成熟を表わす言葉が、社会的成功に置き換わっています。カトリックでは「自分以外の他者、とりわけ神と神から示される使命に向かうことで自分本来の姿を見出し、本当の自分に向かうことが出来る」と教えます。これが真の自己実現です。ところが神を否定した現代人には理解できません。「他者のために生きるのは、狂人か役立たずの理想主義者」と考えます(同上p.158)。現代社会の個人主義では、自分の挙げた成果が人生の価値なのです。そして人間の価値なのです。こうして、「自己実現しなけらばならないという強迫観念」を持つに至ります。

「世に従う生き方から、神に従う生き方へ。利己的な生き方から、聖霊に導かれた生き方へ」(同上p.158)大転換を決断する時です。世の中は経済優先で、お金と欲望のシステムで動いています。人間そのものの価値より経済的効果でその人の価値が決まります。人を利用するけど、役に立たない人を切り捨てます。だからこそ、一人一人が自覚して、神に従う生き方、つまり世間的に弱い者を大切にして守る社会を創ろうと教皇様は呼びかけています。大げさなことをしなくても、今ある日常で家族や友人を大切にすることから始めればいいのです。本校の卒業生が嬉しい便りを届けてくれました。

「(…)平凡なサラリーマンで、学生時代の自分が知れば落胆するような面白くない人生かもしれません。ただ、いたって普通の生活ですが、日々そこそこ充実して、楽しく過ごしています。(…) 精道の環境で培った自己肯定感のおかげで、等身大の自分を肯定し、今の生活を楽しめるのではないかと思っています。」
恐れから努力しても幸せになれません。人を思い、社会を思い、世界を思い、夢を持って、目の前の人を幸せに出来る人が幸せになるのです。■
*2023/05/26 高三説教(文責:小寺神父)